2021年の第47回日本ケーブルテレビ大賞番組アワードの審査は、新型コロナウイルスの感染拡大予防のため、昨年に続いて、最終審査会をオンラインで開催することとなった。この1年半あまり、コロナ禍が、ケーブルテレビの制作現場にも少なからず影を落としていることは、容易に想像がつく。そのような厳しい制作環境にもかかわらず、今回のエントリー作品全体に言えることだが、総じて作品のクオリティーが高まっており、多くの審査員から作品の水準が上がってきていることを実感するとの声が出されたことを、まず、記しておきたい。加えて、この1年間の最大の関心事でもあるコロナ禍がもたらした市民生活への影響をテーマとした作品も多かったが、他方で、この1年は、戦後75年、東日本大震災発災から10年という節目でもあり、これらをテーマにした作品も少なからずあったことは、ケーブルテレビの制作者の矜恃の現れと言えよう。
大賞となった広域高速ネット二九六の「成東駅列車爆破~終戦2日前の惨事」は、日本が敗戦を受け入れを表明する2日前に、米軍機が成東駅に襲来。弾薬を積んで停車中だった列車が機銃掃射を受け爆発し、多くの被害者を出した事件を、元駅員や遺族らの証言をもとに振り返った作品だが、ケーブルテレビが、地元の歴史を掘り起こすケーブルテレビらしい作品であるとともに、戦後75年の節目にふさわしい作品として、満場一致で大賞が決まった。準グランプリには、東広島ケーブルメディアの「酒都に響き渡る伝統~オペラ『白壁の街』第40代の軌跡」となったが、制作経験5年以内のディレクターに応募資格がある新人賞部門にエントリーされた作品であるにもかかわらず、その完成度の高さから、同賞の受賞が決まった。もちろん、本アワード史上、初めてのことである。
周知の通り、ケーブルテレビの4K化推進を応援する意味も込めて、他の番組アワードより先行する形で4K部門を設置した本アワードだが、ケーブルテレビ業界では、この間に4K制作が一般化してきたこともあり、本年度から4K部門の募集は見送ることとした。もちろん、どの部門にも4Kで制作された作品は少なからず出品があり、特に最終選考に残った全部門の作品のなかでも、特に4Kの特性を生かした優れた作品として、Goolightの「地域を元気に『北信濃の祭り』」、倉敷ケーブルテレビの「大原美術館史~受け継がれる大原DNA~」の2作品に、4K特別賞を贈ることとした。
また、コミュニティ部門の審査員特別賞は、長崎ケーブルメディアからエントリーのあった「英語で語る93歳の被爆体験」とともに、新人賞部門にエントリーした「そこにあった命」と併せて贈ることとした。いずれも長崎ケーブルメディアが放送する地域情報番組「なんでんカフェ」のなかで、長崎の被爆体験をテーマにしたシリーズの1つとしてOAしたもの。地域の歴史を今につなげる制作姿勢を含めて顕彰することとした。
アワードで受賞された皆さま。おめでとうございます。来年以降も、さらなる質の高い作品のエントリーを期待しています。
終戦を迎える2日前に交通の要所であった成東駅を米軍機が襲撃し、弾薬を積んだ停車中の列車が大爆発を起こすとともに、民間人を含む無差別の機銃掃射により、多くの犠牲者を出した75年前の惨劇は、成東の歴史に刻まれた戦争の傷跡である。戦後75年の節目に、犠牲者の遺族や元駅職員など、少なくなってしまった当時の様子を知る人たちの証言を丁寧に拾い集め、地域の歴史を甦らせた地元のケーブルテレビならではの作品として、高く評価したい。
地域の悲惨な歴史を掘り起こす取材力、映像、編集、コメント、構成、いずれも見事である。 終戦2日前の悲劇、九十九里浜近くの国鉄成東駅で、大砲と弾薬を満載した貨物列車が米軍機の機銃掃射を受け大爆発。貨物車を切り離そうとした駅員と兵士42名が爆死、駅員の中には国民学校卒業して間もない少年少女9人がいた。75年たっても、その凄惨な光景は目撃した仲間からは消えない。犠牲者の妹の悲しみが癒えることもない。
終戦の2日前、米軍機が駅に停車していた爆弾満載の列車を機銃掃射で爆破するという事件があったことを、この作品を見て初めて知りました。75年前の夏の出来事は一般にもあまり知らされていなかったということのようです。兄の死の真相を初めて知ったという証言が大変リアルで切実でした。
地元で起こった出来事をキチンと思い起させる、よくまとまった作品でした。
それにしても、米軍戦闘機に搭載されていたガンカメラの映像をどのような経緯で使うことができたのでしょうか。こうした事実を多くの人々に知らしめることもケーブルテレビの役割として評価したいし記録映像としても貴重なものだと思います。
テレビは、どう戦争を現代に伝え続け描くことができるのか。戦争体験者も少なくなり、それが大変むずかしい時代になってきている。そのような中、地元で起きた終戦2日前の惨事を丁寧な取材により掘り起こし、真っ向から番組制作に挑み、密度の濃い作品を作り上げたことにまずは敬意を表したい。ガンカメラはじめ、米軍資料の発掘、関係者の証言を丹念に探しだし、勤労動員されていた少年少女の犠牲者を含め駅爆破の惨事の真実を明らかにしていく、その過程は見応えがあった。貴重な証言の数々、遺族の描いた絵は重く胸に突き刺さってくる。75年目にして真実を炙り出したこの番組の功績は特筆に値する。
日本人にとって嫌でも身近だった「戦争」が終わって76年。地球上では戦火がやまず、東アジアの軍事危機を予想する人もいる。戦争はまだ過去の話ではない。
だから「8月ジャーナリズム」と揶揄されようと、戦争が人間にとっていかに不条理で悲惨な出来事なのかを、具体的に明らかにし続けることはメディアの変わらぬ役割だ。
多くの犠牲者が出た成東駅列車爆破を掘り起こしたこの作品も、その努力の一つとして評価される。終戦2日前の出来事という悲劇性。上陸への抵抗を少しでも減らしておこうとする軍事の論理と、地上に生きる人々の生活の論理とを、改めて考えさせられる。
戦後75年以上が経ち、当事者の生の証言に触れる機会は極端に減りました。この番組は歴史に埋もれた惨劇を丹念な取材と構成でひも解いています。8月6日、9日、15日と、8月にはいくつもの「あの日」がありますが、終戦のわずか2日前に42人の命が奪われた「知られざるあの日」を掘り起こし、人々の記憶に刻んだ功績は大きいと思います。当時を描く絵やガンカメラの映像、識者の解説が理解を深め、30分番組とは思えない厚みをもたらしています。男女の語り手の使い分けも時代の行き来をわかりやすくしました。今の中高生と同じ年頃が犠牲となった史実は切実で、「怒りで怖さがわからなくなる。目の前で友達を殺されたら…」その言葉が重く響きます。
終戦二日前の空爆の犠牲者、その葬儀が終戦8月15日という事実は極めて残酷であり、かつ様々な気持ちが終わりを告げる日になったことの大切さが伝わった素晴らしい作品でした。体験者から発せられた「悔しい」「嫌ですね」という飾ることのない言葉が、記憶を残す必然性と遠い過去の出来事に追いやらないという意識の重さを感じずにはいられませんでした。番組制作者の使命を感じた作品でした。
グランプリが4K制作されていることをとても嬉しく思います。難しい題材ですが、同局が丁寧な取材と仕上げで完成されたことに他の審査員も異存が無いと思います。4Kで完成される場合は、オンラインシンポジウム収録映像を混ぜることの難しさや図版や過去写真をどう扱うかが編集上かなり難しく、クルーが時間をかけて制作されたことが伝わってきます。4Kでの番組作りを日常で実践されている事に敬意を表します。一層の高みを期待します。
酒作りという地域を支える産業文化を、地元の西条小学校がオペラにし、それが40代も続いていることにまず驚かされる。そのオペラ「白壁の街」の継承と、アクティブラーニング(体験型教育)に着目し、その制作過程から、関わっている教師、生徒らの姿を丁寧に取材・撮影し、作品化したのは、地元のケーブルテレビならではと言える。作品としてやや冗長なところもなくはないが、この作品が、地域社会の文化を保存した映像記録として価値があることからすれば、その冗長さも許容されるものだろう。
西条小学校の伝統のイベント、40年間続く6年生全員参加のミュージカル。コロナ禍で、父兄が直接観戦できない中、ケーブル局の取材放映で、学区を越えて地域全体のイベントになった。生徒にとっても一生忘れられない思い出、映像アルバムになったことであろう。
酒造りで働く人々の群像劇、このミュージカルそのものが良くできている上、練習風景と本番、映像も音声も見事に収録し、その内容を過不足なく伝え、地域のメディア・ケーブルテレビの役割機能をいかんなく発揮した秀作である。
日本三大酒どころのひとつ東広島に伝わる小学校6年生によるオペラ「白壁の街」の40年にわたる活動の足跡と40代目の練習風景を半年にわたって取材した労作でした。
子供たちの真剣な表情をカメラが追う。
自宅での練習風景も丹念に描いています。
迫力ある本番はコロナ禍にあって無観客で行われたが、番組ではダイジェストで見せてくれたのが親切で良かったと思います。
企画・撮影・編集からナレーションまで、一人で制作した点も評価したいと思いますし、新人賞部門からグランプリを競う作品が出たことを特に高く評価したいと思います。
まずは、コロナ禍のなかで8ヶ月以上にわたり、感染対策をしながら、小学校の取材を注意深く継続されたことは素晴らしい。信頼関係がなければできない取材であり、根気よく丁寧に取材をされたことに敬意を表する。この6年生全員で演じるオペラを、スタートから舞台の完成までの一部始終を記録し、そのプロセスの中での、地域との関わり、子供たちの心根、そして成長が描かれた。長期に見つめたからこそ、このオペラの持つ意味、お酒の都という地元の誇りがより深く伝わってきた。一点だけ、もう少し現場の映像の力を信じても良かったのではないか。ナレーションが説明過多で、せっかくの現場の臨場感が損なわれることが多々あり惜しかった。
「現代っ子」が、変にシラケたりもせず、こんなにも真剣に一つの舞台づくりに集中している。その姿に驚かされた。しかもそれが40年続いているという伝統にも感服する。こういう素晴らしい教育が地域に息づいているのだ、と教えられた。
稽古での子ども達の表情や語り、本番の舞台では全景、アップ、横顔と工夫されたカメラワークが、見る側を引き込む。完成度の高い作品だ。あくまで子供たちを主役にして、指導者役はほとんど登場させない「純度」にも拍手したい。このオペラの取り組みがさらに続いていくことを願わずにいられない。
コロナ禍にあってこうした催しを長期取材し、まとめあげるまでには大変な苦労があったと思います。その努力に敬意を表します。オーディションや練習の時の表情、エピソードからは長年オペラ「白壁の街」を続けてきた意義や児童の成長がくみ取れました。一方で、ややナレーションが多く臨場感を損なうシーンもありました。もう少し生音を効果的に使うと見る人がもっと没入できたかと思います。もう一点、たとえば(声楽家の母親に加えて)酒造りに携わる親御さんがいるようなら、構成要素の一つに加える手もあったかもしれません。それにしても制作経験4年の制作者が企画・撮影・編集・ナレーションまでやり遂げたことには感服しました。
新人とは思えないほどのバランスに優れた、そして丁寧に描かれた作品でした。新人であるが故の自分の役割、すなわちそれは「足繫く通い、溶け込むこと」を実践した制作者の熱意と実行力は評価に値すると考えます。小学校の取材は、いかにカメラがあたりまえにあるものだと感じさせ、一方で取材者は一定の距離感を保つことが大切です。こうした取材が出来るのもケーブルテレビの強みであり見事に「地域」を描き出しました。
審査員全員異存がない番組で、本当に新人賞部門なの?と言う事で準グランプリを受賞した。約一時間尺だが一気に見入ってしまいました。ディレクターは何よりも自己肯定感があり、人間好きが伝わってくる内容で時間をかけて取材対象と接する事が出来るのはうらやましくほほえましい。特に感じるのは最後の本番、ホール収録での技術陣の力量の高さは敬服する。この技術力に支えられて作品の質が大幅に向上した。何よりも音の収録が良い。
「山車は神様に対するアンテナ」という話や、日本初のご当地ソングという「須坂小唄」が生まれたエピソードなど、情報満載の知的エンターテイメント。ゲストの人選やセットの使い方、テロップのテイストなど細部に演出が施されています。長野県立歴史館笹本館長の「祭りこそ防災の訓練」という話にはハッとしました。一点、「北信濃の祭り」と言いながら本編に入るとなかなか祭りを見せてくれない点が気になります。須坂ゆかりの人たちのメッセージの導入に祭りの一部を使っても良かったかも。また他局の番組にも言えることですが、タイトルが単なる説明で終わっているケースが多く見受けられます。見たくなる、仕掛けやこだわりを見せてほしい。
様々な発見があった番組でした。山車の由来、小唄の発端、須坂が製糸の街であることも番組を見て知りました。須坂と言えばかつては長野電鉄の要衝、屋代線も接続した街でした。街の勢い、人の勢いが0→1を生み出すイノベーティブな風土だったとも言えます。須坂小唄を生み出す背景も驚き。さらに高精細撮影された素材を元に、スタジオの構成も丁寧で、安定感ある4K番組の制作力を高く評価いたします。
今年度から4K部門がなくなり、ある意味4K呪縛から解放され良い面でバランスよく制作できた事例と思われる。同局は黎明期から4K制作に熱心で、地域の祭りなどのライブラリも充実していた事もある。4Kパレット上にリモート出演者映像や過去素材を置く難しさは大変だと理解できるがとにかくバランスが良い。ロケセットで作られた4Kスタジオマルチカメラ収録は秀逸、良きゲスト出演者にも恵まれた事も功を奏している。音バランスも良い。
日本を代表する美術館の周年にふさわしい重量感のある作品。倉敷の実業家・大原孫三郎、總一郎、謙一郎の3代にわたる大原家の歴史を美術館の成り立ちから、戦中戦後、その成長、そして令和時代を見据えた今後にわたり紐解き、コロナ禍で不要不急とも言われている芸術の価値と社会の関わりを正面から描いた。丁寧な資料の掘り起こしと取材が、再現ドラマ、インタビューなどで次々と積み上がり、大原のDNAともいえる明日への挑戦と暖簾への信頼を軸にきっちりと構成された。作中の数々のアートも堪能でき、4K特別賞に輝いた映像は価値がある。
題材、撮影、編集等4K制作の優位性に加え、これまでの4Kへの取組み、姿勢力も高く評価。思想と信頼という大原DNAとは何か=「いつもあたらしい明日をめざして、暖簾の信用を守る」というテーマを丁寧に表した作品です。謙一郎氏の言葉「(過去を見るだけでなく)今、そして未来、で考えたら、何を作り出せるのか」はVUCAの時代に響く言葉でした。ポピュラーな倉敷や大原美術館を取扱ながらも単なる編年でなく、切り口としての「アート」の力を軸に「実業」という視点×「人」の掛け算、そこに脈々と流れる大原DNAの思想を垣間見ることが出来た作品です。
この番組は題材として4K制作するに十分な内容で、大原美術館界隈での取材はどこを切り取っても見ごたえのある映像であり4Kならではの醍醐味を感じられる。同局の技術陣は当たり前のように4K制作が出来る経験があり、制作陣はそのスキルに支えられ思った通りの演出で完成できたことは他局にとっても大きな刺激になると思われる。編集のバランスも良いし、音声の仕上がりも文句なし、機会があれば是非4K環境かつ大画面でご覧頂きたい。
福島第一原発事故により、長野県・伊那に移住しても果樹農家を続けようとする佐藤浩信さんの10年の足跡、そして、その暮らしぶりを丁寧にカメラが追うことで、福島原発事故が生活者一人一人にもたらしたものとは何だったかを、改めて考えさせられる作品。東日本発災から10年の年月を経ても、日常を取り戻せないでいる佐藤さんの姿を、震災による直接的な被害が少なかった南信のケーブルテレビが取材し続けることで、東日本大震災による痛みを、被災地に押し込めることなく、自分たちのこととして向き合おうとする姿勢も評価したい。
福島県伊達市から長野県伊那市に移り住み、果物づくりを続ける佐藤さんを、10年追い続けた作品だ。2011年の桃の苗植えに始まり、あんぽ柿の加工、剪定、リンゴの接ぎ木、ブドウ棚づくりと、果樹作業は続いていく。
この作品の背景には、福島原発事故と風評被害の問題があるが、撮り手が目を凝らしたのは、試行錯誤をしながら丁寧に、丁寧に手をかけていく、奥深い「果物づくり」そのもののように思える。寡黙な佐藤さんが口にする「果物づくりは創造の世界、闘いだよ」という言葉が印象に残った。
時間をかけてきちんと対象と向き合い、撮り続けた作品ならではの重量感がある。
2012年から毎年「伊那からみた3.11の今」という視点で番組を制作し、今年は(無観客で)シンポジウムも開いたとのこと。被災地を訪れ支援する人や被災地から逃れて来た人に長く目を向けてきた局ならではの労作でした。私は佐藤さんの「借金は授業料」という言葉が印象的でした。そして同時に、資金面が気になりました。補償や補助金は?どのくらい借入をしたの?残る返済額は?など踏み込んだ話ですが、被災者の復興とお金は切り離せない問題。苦境にある人を追う時、そこにどんな壁がありどのように乗り越えていくかは大事な要素です。彼が「ようやく2010年に戻った」と語っているだけに、機会があればその信頼関係の範囲でトライしてほしいと思います。
吹屋のベンガラ瓦の街並み、この街唯一の食堂の新米の若者と地元の老人たちとの交流。ゆったりとした時間が流れ、若者は蕎麦打ち、うどん作りを地元の年寄から伝授され、若者は高齢者の日常の便利屋を買って出る。心温まる風景だ。長野からやって来た父親が多くを喋らず、息子のうどんを最後の一滴まで飲み干す。その姿からは彼を育てた家庭の暖かさも伝わる。時々挿入されるベンガラ集落の全景も効果的。突然の中島みゆきの唄の挿入も違和感はない。
過疎地への移住者に光を当てる作品は少なくないが、本作では、主人公のがっちゃんが若いころ人嫌いだったこと、大学を中退して吹屋に「たどり着いた」ことなどにさらりと触れている。それが伏線となって、土地のおばあちゃんたちに受け入れられ、頼りにされることの尊さを、がっちゃん自身が日々たしかに知っていく一つの「成長物語」ともなっている。がっちゃんの内面に制作者がしっかり入った成果だろう。
赤褐色の古民家が軒を連ねる風景が何とも素敵な吹屋地区。高齢化が進む集落のあちこちで見られる住民の笑顔と、リニューアルオープン時のがっちゃんの涙が印象的です。他にも、溝に車がはまって住民から呼び出されるシーンや、がっちゃんを訪ねた父親が黙ってうどんを飲み干すカットもいいですね。現場に溶け込んでじっと待つことができるディレクターが、吹屋のそのままのぬくもりを届けてくれました。それにしてもがっちゃんの人柄と土地の人たちの思いが見事にフィットして心温まる物語になりました。カメラの構図や被写体との距離感がよく、ナレーションも語り過ぎず、生音の活かし方も良かった。同じ制作者にとって学ぶことの多い作品です。
100年以上の歴史を誇る地元の一大イベントである「大曲の花火」が、コロナ禍によって、中止に追い込まれるなか、その映像を撮り続けてきた地元のケーブルテレビならではの作品である。また、コロナ禍により、その活躍の場を失われてしまった花火師に、制限はありながらも、その匠を発揮する場を提供しようとした「日本の花火エールプロジェクト」に、秋田ケーブルテレビが基幹局となって全国のケーブルテレビと連携して、各地で一斉に上がる花火の映像をリレーした。そのネットワーク力も高く評価したい。
1年間追跡シリーズといえば、季節や人々との関係性が変わる中で成長を記録し伝えるという充実度は制作者としても楽しいものです。しかしながら、「行き先が決まらない8万発の花火」と「花火を打ち上げられない花火師」の1年間を追うというネガティブな状況に向き合いながらも、花火に込めた熱い想いを持つ花火師達の大いなる群像を見事に描いた番組。全国の事業者との連携も番組制作に真摯に取り組んできた結果と言えます。
数ある花火を題材にした番組の中でコロナ禍の為に単なる中継記録ではなく、花火師の心情と目線で制作され成功した事例。エールプロジェクト開催各地で取材した全国ケーブルテレビからから集められた素材も素晴らしいが、何よりも興味深いのは大曲の花火師が打ち上げるシーンがとても良い。4K映像が花火師目線で収録されている場面は新鮮で素晴らしい。打ち上げ場所からの収録で音も良いです。少し残念なのは仕上げでBGMとの音バランス。
コロナの影響で中止された伝統行事やイベントをこれまで収録してきた映像で特集する企画は数多く見られましたが、コロナそのものの影響を取り上げた作品はこれだけでした。
コロナ禍の観光地・温泉街の一年を取材。 ニュース特集を記録して一本化した作品でしたが、苦悩する温泉経営者の「生命維持装置をつけた病人のようなもの」という言葉が大変印象的でした。
番組終了後に視聴者から吉良温泉に宿泊したいう便りがあったとのこと。
番組は今後も継続するということですので、それに期待したいと思います。
この一年、コロナで苦しむ観光業の企画を数多く見てきました。それだけに、もう少し番組の入り方を工夫しないと見てもらえないおそれがあります。こだわった映像や独自の視点から入る努力を心がけてください。小山茉美さんは上手ですね。原稿もよく練られていました。地元メディアの強みを生かした長期取材の力がありました。一つ気になったのは取材時のコロナ対策です。マスクなしで感染対策を語る組合長や役員会、厨房の中でのマスクなしでの調理、マスクなしの運転席でのインタビュー…今回のテーマを考えれば特に配慮が必要です。インバウンドの恩恵を受け潤ってきた観光地が、この先どう立ち直るのか?ぜひ今後も見守り続けてください。
日本のもの作りの要素がぎっしりと詰め込まれているからくり人形。その数少ない職人として91歳の人生を全うした後藤大秀さんの最後の一年に密着した貴重な記録だ。四角い木材からノミで人形の顔を切り出していくことから始まり、さまざまな工程を経て人形の顔ができていくさまが克明に描かれ見入ってしまう。技術的な説明もシンプルでわかりやく日本の伝統工芸の深さを感じさせる。人形作りの現場と彼の職人としての長い人生を織りなす構成で秀でた職人の人生を浮かび上がらせた。後藤さん亡き後に、妻が人形衣装作りをする針仕事のシーンは心に残る。
「大工~彫刻を経験し、50歳の頃に能面の職人に弟子入り。からくり人形師として90歳を超えてなお新たな仕事にときめく」そんな魅力的な人物の“最後の仕事”を記録する…この舞台設定に冒頭から引き込まれました。主人公の手仕事同様、番組も丁寧に描写を続けます。柔らかな笑顔と共に語られる「人形の魅力」や「職人としての信念」、時折挟まれる熟練の手先の動きや油抜きなどの技法も魅力的です。ストレートな物言いで夫の最後の仕事を仕上げた妻の存在も効いています。贈賞式の日は、大秀さんの命日だったそうです。ナレーションにもあった「意味があるかどうかは百年後の人が決めること」そんな大秀さんの言葉の重みをかみしめた49分でした。
倉敷の街並の礎を築いたといわれる薬師寺主計の足跡を描いた作品で、彼が設計した大原美術館をはじめ美観地区の映像が大変に美しい。倉敷の恩人ともいえる大原孫三郎との関係も知ることができる。
案内役の上田名誉教授の話はわかりやすいのだが、ナレーションと教授との会話に頼りすぎた構成が、やや物足りない気がしました。
イオニア式の柱を持つ大原美術館をはじめ、50以上の倉敷の建物を建築家として手がけた薬師寺主計に光を当てる作品だ。大原孫三郎や工務店との共同の仕事ではあるが、半永続的な美観と実用性を持つ建物群、いわばまちの「容姿」をつくる、建築という仕事の大きさを改めて教えてくれる。 夜の灯りで浮かび上がる旧中国銀行倉敷本町出張所のステンドグラスの映像は、とても美しい。建った当時の倉敷の人々をも、さぞ驚かせただろうと想像させて楽しい。
なんと自然体で家族の日常を描いているのだろう。難病の母親と息子の4人家族は、厳しい状況におかれていて、取材のハードルはかなり高かったと推察されるが、スタッフの関係性の賜物だろう。この家族を取材していくなかで、スタッフとしての葛藤もあっただろうが、時間をかけて、誠実に家族やチームの人々に向き合ってきたことがよくわかる。阪神・岩田選手からのサプライズメッセージ。取材者が取材対象にどこまで踏み込むか、難しい判断もあったかもしれないが、心温まる瞬間だった。母親が撮影した病院での親子は忘れがたい素晴らしいシーン。
もはやケーブルテレビでしか達成できない番組なのかも知れません。いち家族、それも難病を抱える子供と親御さんに対して、直球で投げかけるインタビュー、これは懐に入り取材が出来る信頼関係の賜物と感じました。さらにⅠ型糖尿病の患者さんを一般論でなく、あくまで「いち家族の具体例」として見せたこと、またこうした報道が周囲の病気への理解、いじめや格差をなくす一つのきっかけになることなどを評価いたしました。
国東半島の臼杵の磨崖仏は全国的にも有名であるが、大分県の各地、阿蘇火山岩の岸壁90か所に400体もの磨崖仏がある事は知られていない。中世の修験僧の作品なのか。風雪に洗われ摩耗した石仏も魅力的だ。地元の住民が確認する「観光客が感想を書き留めたノート」。それを読んで地元の磨崖仏に寄せる気持ちも新たになる。「磨崖仏は観光資源であと同時に、地域の守り神でもある」。年寄りの発言の土地訛りが美しい。
4K作品であり、取材対象が4Kの優位性を一番感じられる摩崖仏と言う断崖に仏を掘られた被写体、このような内容を全国に紹介できることは素晴らしいです。数々の摩崖仏を何日もかけて記録されており地域ならではの内容です。女性新人の方がナレーションを読んでいるという付記がありますが特に違和感はありません。編集と整音もバランスよく安心感があります。今後も同局の4K制作体制に期待します。
オンラインシステムを活用し、地元の人たちと共に、自分たちが暮らす地域社会の未来を、スタジオを基点に議論しあうという作りは、地元に立脚したケーブルテレビならではの作品。地域の課題を、ケーブルテレビを通じて、地域の人たちと共に考えるというフォーラム機能を果たそうとしていることをまず評価したい。池上彰さんのMC起用は、そのネームバリューを含め、作品全体のグレード感を上げるのに貢献したのは確か。日ごろ地域外で暮らす池上さんだが、その博識となめらかな語り口で、違和感なく地域の問題を一般化して展開していたのはさすがである。
この特集を拝見すると、このケーブル局の普段の仕事ぶりが判る。問題意識、取材の仕方、地域住民からの信用され具合が伝わってくる。
コロナ禍で地域の◇経済産業分野◇教育現場◇人々の暮らし◇医療福祉、それぞれの現場がどういう問題を抱え込み、それをどう克服しようとしているか、克明な現場取材がなされ、それをスタジオで整理議論、オンラインで結んだ視聴者50人の声も届ける。東京から解説の達人も参加、見事な地域放送となった。
コロナ禍をいかに生きるかを考える特別編だが、池上彰をコメンテーターに、ふかわりょうをⅯⅭに起用するというぜいたくな作品でした。産業、教育、暮らし、医療の4つのテーマについて考えるもので、50人の視聴者もリモート参加し立体的に構成されていました。ケーブルテレビだからできるコロナ対策を考える、ひとつのチャンスを提供する番組になっていたと思います。
それにしても、池上彰のアップ映像がチョット不気味でした。
大の大人が、しかも相当な年寄りが、子どものように夢中になって、山野をかけめぐる。南アルプス山麓に昔から伝わる「地蜂の巣」採りだ。餌をにじませた綿などの目印を働き蜂につけ、それを持ち帰る蜂を追いかけ地面に隠れた巣を発見する。その幼虫を炒めると、栄養豊かな珍味だ。しかし、この伊那地方では自宅にその巣を持ち帰り育て、秋にその巣の大きさを競うコンクールを行う。この地域色豊かな遊びの行事が、何時までも続くことを願うばかりだ。
蜂追い文化を継承する伊那市土蜂愛好会の活動を取材した作品ですが、蜂の見分け方、自宅の庭の木箱を育て、巣の大きさを競うコンテストの開催など、どれも大変珍しく、興味を持って見入ってしまいました。
「スガレ追い」という手法は、蜂に目印をつけて蜂の巣を見つけ出すというものですが大の大人が何とも楽しそうで愉快でした。カメラマンさんはご苦労様でした。
このような地域の伝統を子供たちにも伝え続けていくためにも、ケーブルテレビの果たすべき役割は大事なものがあると感じさせてくれました。
まず「ナニが始まるんだ?」という番組の入りがよかった。「土の中から宝を探せ!」というタイトルにも引き付けられました。このネタを一年追ってみようという好奇心と意欲に脱帽です。私は静岡県出身ですが子どもの頃、蜂の巣をとり友達の前で蜂の子を食べるのは一種の度胸試しでした。信州の「蜂を食す文化」は知っていましたが「蜂を追い、蜂の巣を育てる文化」は初めて見ました。どれだけ年を取っても夢中になれるものがあることは幸せです。「蜂追い体験会」といった若い世代に伝承する取り組みが実ってほしいとも思います。秦基博と蜂追いがこんなにマッチするとは思いませんでしたが(笑)、コロナ禍を忘れさせてくれる大好きな作品です。
国連やローマ教皇庁などが長崎に熱い眼差しを向けるなか、レギュラー情報番組枠「なんでんカフェ」で、長崎の被爆の歴史を、生活者目線で繰り返し取り上げていることについて、まず高く評価したい。それゆえに「そこにあった命」と併せての審査員特別賞として顕彰した。
長崎での被爆体験を世界に向けて発信するために、90歳を過ぎて英語を学ぶ築城招平さんの胆力もさることながら、その築城さんの英語を指導する横山理子さんに目をつけた取材者の感度の良さも光る。そこで展開されているのは、自らが暮らす土地が被った歴史的体験の持つ今日性、国際性であり、そのメッセージを映像で具現化することで、より説得力を持つものとなった。
今年、核兵器禁止条約が発行されたが、被爆75年の日本は参加をしていない。そのような状況下で被爆地長崎の放送局として、日常のスタジオ情報番組「なんでんカフェ」のなかで英語で体験を語り継ぐ93歳の築城さん、そして今も発掘作業に取り組む語り部の竹下さん、このような強い意志を持つ被爆体験者に焦点をあてた密度の濃い特集を発信したことは意義深い。スタジオもVTRをフォローし、さらに深める役割を果たしていた。人生の残された時間をどう生きるか、強い信念をもち、被爆体験を語り継ぐ、それぞれの姿に感動をした。
出品部門は異なるが、同じ長崎ケーブルメディアの関連番組なので、2つの作品を併せて審査員特別賞とした。
「英語で語る~」は、平和への信念から英語での語り部を目指す93歳と、英語力の面で力を貸す若い女性の二人三脚の活動を描く。女性はアフガンやスーダンを見てきた人といい、年の離れた2人の邂逅は単なる「継承」を超えて、いま世界にある戦争と被爆体験との切り結びを考えさせる。
「そこにあった命」は、原爆遺構を自ら発掘し幼児の骨などを見つけた被曝女性の話。炸裂直前まで、そこには、人の命と生活があった。
地域の名所旧跡、祭・各種の行事やトッピクスに食レポ。それらを訪ね歩く身近な旅は、ケーブルテレビの定番である。その足に自転車を使うのがこの番組の特長。車より季節感を感じ、思わぬ人との出会いも多く、徒歩より守備範囲は広がる。番組が成功するかどうかは、なんといってもリポータ―の力。明るく、誰とでも気さくに話が弾み、しかもリポートは簡潔で的確。その点、この番組は成功と云える。これまで36本制作しているという人気番組だ。
自転車に乗って大分県内を巡るレギュラー番組はもう4年も続いています。今回は佐伯市編で、ドローンを使った空中映像が美しく印象的でした。
エリア内の諸々を訪ねて廻る番組は、ケーブルテレビの定番といえますが、定時番組として気軽に楽しめます。
熊本地方を襲った地震から4年、当時の被害の様子、それからの地域の復興と山積した課題の報告である。地域のリーダーの役割、避難場の問題、仮設住宅隣人の選択と街の人情、ボタンティアや役場職員の働き。住宅の耐震審査の勧め、通電火災への備え、ハザードマップの確認。被害の中心益城町・町長のスタジオでの発言には災害地のリーダーとしての自覚が感じられ、この地震災害リポートには、地域メディアとしてのケーブルテレビの自負が感じられる。
「アノトキノワタシ」「家庭で出来る備え」など、やや総花的な番組だが、復興への思いは伝わってくる。
あのとき、不安な住民や疲れ果てた町職員を見かねて、自ら避難所に残って尽力したという男性の生き方。
店は倒壊したが、元従業員や元職人からの義援金によって、店を再開した菓子店。
いくつもの印象的な挿話が、「つなぐ」という意味を物語る。
幕末から明治期にかけて活躍した医師、松本良順の足跡を紹介する番組。コロナ禍のいま、公衆衛生の大切さを教えた人物の存在をこの作品を通じて知ることができました。牛乳の普及や、日本で初めて海水浴による健康法をはじめ、食事が健康にとって大切なことをはじめて知らしめた人物でもあり、その足跡を、新選組とのかかわりなどのエピソードも交えながら紹介してくれました。
広域高速ネット二九六は、伊能忠敬など地元の偉人をテーマとした作品が定着しつつあるように感じています。
日本ににおける漢方から蘭方への歴史の転換ポイント、そして公衆衛生という概念の発端を、松本良順という人間を通して描き、かつ長崎に遺る歴史の足跡を時空を結びつけてわかりやすく描いた作品です。良順を軸に、歴史の動きと公衆衛生の謎を自分で解いていくように追跡する構成にワクワクしながら見ることが出来た番組でした。
2020年はコロナ過で数多くの祭事が中止となりました。ケーブルテレビにとって地元のお祭りがなくなることは死活問題!そんな中「アーカイブ」という視点で多くの局が知恵を絞りました。この作品もその一つ。地域密着30年という記録映像を駆使、巡行が無い中で素材のボリューム感と迫力ある映像で見せ切りました。さらに、こんな時だからこそ「じっくり客観的に解説」した演出が功を奏し、うちわ祭りの深層を理解できました。
1992年同局開局時から熊谷うちわ祭り生放送映像を録画アーカイブ化された膨大な素材からの蔵出し番組、続ける力を痛感する内容で秀逸、まさにコミュニティ番組の醍醐味を感じます。28年前からのビデオテープ時代から素材保存ができていることに敬意を表します。過去のSD素材を今の番組に使うにはかなりの労力を使います。本当に難しいとは思いますがもう少し過去映像や音声のバランスを編集で多少でも改善できればなお良くなります。
文句なく面白く60分を楽しめ、もっと見たい、聞きたいという気持ちにさせられた。ゲストの花火師とオタクとも思えるほどに花火に詳しいMCとのトークが抜群で、歴史ある長岡花火について堪能させてもらった。コロナ禍で花火大会中止というなかで生まれた番組だが、生中継でリアルに視聴者とも結び、中止になった花火大会を補うのにあまりある優れた企画だったと言える。例年通りの花火大会では、花火師がこのように解説することは物理的に不可能だと思うが毎年、生中継で花火師の臨場感あふれる解説付きで見ることができたらどんなに素晴らしいだろうと思った。
長岡で長年、花火大会を中継している同局ライブラリの集大成となる番組。コロナ禍でなければ出来なかった内容で、下手すると単なるオムニバス番組になってしまうのだが、花火師の皆さんがゲストで語り合うことで今まで何気に観ていた花火への見方が変わったと感じました。いい構成ですね。ゲストの力に支えられた事もあり好印象で一時間枠を一気に拝見出来ました。地域コミュニティ番組ならでは放送時のSNS活用事例も好感が持てます。
地元出身の著名人の足跡をたどり、その今日的解釈を加えて作品化するというのは、地域密着型メディアを標榜するケーブルテレビならではの作品作りといえる。この作品がフォーカスする高梁市津川町の出身で、終戦直後に大ヒットしたラジオ英会話番組の講師を務めた平川唯一の波乱万丈な生涯を、丁寧、かつ、テンポよく辿ることで、見る者の目を引きつけ続ける作品に仕上がっている。2021年秋から始まる「NHK連続テレビ小説」が、「カムカム英語」をベースにしたストーリーとのことだが、時を見るのに敏なことも制作者の実力だ。新人らしからぬその制作力を高く評価したい。
子供の頃のラジオの思い出。懐かしい午後6時台の放送。この10月から始まる朝ドラの主人公、カムカム英語の平川唯一さんの人生を簡潔にまとめた番組。私も少年の頃、熱心な聴視者ではなかったが、ラジオから流れるテーマ音楽と平川さんの声には覚えがある。この番組を通じ、その人生の全容を興味深く拝見。朝ドラのタイミングをとらえた、地域の動きもほほえましい。
えっ、これが新人賞!と驚くほどの番組だった。てっきり、ベテランの制作者が作ったのではと思った。地域の人々が演じた再現ドラマ、歴史資料などのアーカイブ素材、そして現在のリアルな取材の3つをうまく合わせた構成がコンパクトにまとめられていた。特に、地域の人々が演じたドラマ部分のテイストが、番組全体にマッチしていて、うまいなあと感じた。カムカム英会話がお茶の間にもたらした明るい希望を描くことにより、コロナ禍でのメディアの役割についても考えさせられた。戦中にアメリカに育ち、戦後、ラジオ英会話で一時代を築いた平川唯一を、津川町の地域と一体となって見事に蘇らせた。
東日本大震災から10年、知らない子供たちも多くなってきた今日、災害への備えを考える作品で、地震発生時+数時間後+数カ月後と段階を追って考えるのがひとつのアイディアになっている。
東日本大震災時の被災地の映像は三陸ブロードバンドから提供を受け、南海トラフ地震も想定したイメージ映像がリアルに感じられました。また東北の人たちの体験談を上手に取り入れるなど、地域の問題点を整理して番組にしていることに好感が持てます。
ケーブルテレビの大きな役割のひとつに災害から地域をどう守るかということがあると思う。南海トラフということが現実に想定されている地域ならではの切実感が実践的な番組の作りに表れていた。発生、数時間後、数日後と3つの段階にわけて、わかりやすく丁寧にリスクを伝えている。特に、随所に入ってくる東日本大震災の当事者たちからの体験談、そのインタビューの使い方が、的確であり、説得力があった。南海トラフへの危機を伝えるとともに、あの3.11から10年ということを改めて強く想起させられる番組の構造が、素晴らしかった。
ともすれば「風化させまい」との呼びかけに終わってしまいがちなテーマを、自分のまちの南海トラフ地震に引きつけて、東北被災地の人たちから具体的な助言をもらうという優れた構成でつづった作品だ。
全体を「地震発生―津波」「数時間後―帰宅困難」「数日後―避難所生活」と3つの局面に整理し、「とにかく高い所へ」「帰宅者のための水やトイレの支援マップ、支援協定を」「備蓄の見直しを」など、具体的で役に立つ情報が充実。社独自に行ったアンケートも効いている。
戦争体験の継承のあり方が言われる中、現代の若者から戦争体験者(当時の若者)に手紙を書くという手法は、なるほどアイデアだなと思う。「自分事」としてとらえる一つの試みだ。
「1,2年たつと平気で人を殺せるようになった」という軍隊体験者の言葉に、27歳の女性が「戦争は人を殺すという犯罪を正義にしてしまう」と応じ、一つの響き合いを感じさせる。
ただ、1人の若者が皮肉交じりに「先生の望むことを書く平和学習の限界」を口にする場面がある。番組はそのまま通り過ぎるが、この「限界」を正面から考えることも、継承には大事なことではないだろうか。
戦争を全く体験したことのない制作者が、手紙を書いた若者の感情に共感し、気持ちが大きく動かされたと想像します。そこには、読み手を想像しながら書いた「気持ちをのせた言葉」があり、かつその言葉を紡いだ文章である「手紙」があったのです。今の世、手紙はデジタルに変わったものの、SNSも言葉によって気持ちを伝えることに変わりありません。世代の差を言葉と手紙は見事に乗り越えたことが十分に伝わった作品と思います。
町の路地裏まで知り尽くしたキャラの立った地元タクシーの運転手が、県外出身のアイドルにグルメ情報を紹介する好企画。タクシードライバー(64歳のおっちゃん)×アイドルという普段なかなか並び立たない座組が、絶妙の化学反応を起こして面白かったです。感染リスクを心配してどのTV局も、定番だったグルメ企画が放送しづらくなっています。そんな課題も工夫して明るく乗り越えていました。テロップやMEの付け方、スタジオの展開など様々なノウハウが詰まったこうした人気コーナーを、制作経験4年の若手がこなすというのは戦力として頼もしいことだと思います。これからもコロナ禍で苦境に立つ地元の飲食店の力強い応援団でいてください。
ケーブルテレビの番組アワードで、この内容の番組が新人賞部門から出てくるのは本当にうれしいです。地域貢献も出来るし、ある種のフォーマット化テンプレート化も実現できるので他地域でも通じる内容です。でも出演者とタクシードライバーさんの資質によるところも大きいですかね。局のバックアップ体制も良いのか、ディレクターがのびのびと編集していてテンポも良いし丁寧で好感が持てます。今後、担当者の活躍を大いに期待します。
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音 好宏 氏
上智大学文学部新聞学科 教授
1961年、札幌生まれ。上智大学大学院博士課程修了。日本民間放送連盟研究所所員、米コロンビア大学客員研究員などを経て、2007年より現職。専門は、メディア論、 情報社会論。著書に「放送メディアの現代的展開」(ニューメディア)、「総合的戦略論ハンドブック」(ナカニシヤ出版)など。
河野尚行 氏
元NHK放送総局長
1962年NHK入局、番組ディレクター。
北見放送局など5つの地域放送局勤務の後、N H Kスペシャル番組部長、編成局長、放送総局長・専務理事、NHKサービスセンター理事長を歴任。
現在、ギャラクシー賞、放送文化基金賞、地方の時代映像祭審査委員。
佐々木嘉雄 氏
一般社団法人ケーブルテレビ情報センター 理事長
1967年(株)放送ジャーナル社入社、ケーブルテレビ関係を中心に取材・執筆活動を続ける。
1975年に「日本ケーブルテレビ大賞」番組コンクールを創設、1996年「第10回ケーブ
ルテレビ功労者表彰」、「ケーブルマン・オブ・ザ・イヤー2007特別賞」受賞。
現在、一般社団法人ケーブルテレビ情報センター 理事長。
橋本佳子 氏
株式会社ドキュメンタリー ジャパン プロデューサー
1985年よりドキュメンタリージャパン代表を20年間務める。
ドキュメンタリーを中心に数多くの受賞作品をプロデュースし、現在もテレビと映画の両分野で精力的に作品を作り続けている。
放送文化基金個人賞、ATP個人、特別賞、日本女性放送者懇談会賞受賞。
藤森 研 氏
日本ジャーナリスト会議 代表委員
1974年に朝日新聞に入社し、山形、浦和支局、社会部、朝日ジャーナル編集部、論説委員、編集委員などを歴任し、記者時代に司法、メディア、労働、教育などを取材。
2011年から専修大学、著書に『日本国憲法の旅』、共著に『新聞と戦争』など。
日笠昭彦 氏
LLC創造ノ森 代表
日本テレビ 元「NNNドキュメント」プロデューサー
各局の報道番組やバラエティー番組を手がけた後、2001年に日本テレビと契約。
多い時は年間30回近く地方局に足を運び、構成から仕上げまでディレクターの伴走者の役割を務め、以後「NNNドキュメント」を14年間、600本以上プロデュース。
2015年9月に創造ノ森を設立。
現在はTV番組の他に書籍や映画のプロデュースも手がける。
服部洋之 氏
株式会社東北新社
執行役員 メディア事業部長
兼 メディア戦略統括部 スターチャンネル ゼネラルマネージャー
中部日本放送(株)を経て、1998年(株)東北新社入社。報道・情報番組、ドキュメンタリーなど制作畑を中心に勤務。NexTV-Fコンテンツ委員、Channel4Kスタート時から4K番組の制作を手がける。ザ・シネマ及びファミリー劇場代表取締役社長を兼任。
金森郁東 氏
株式会社ユー・ブイ・エヌ 代表取締役
昭和31年3月20日生まれ、石川県七尾市出身。
東京電機大学卒業後、機器メーカーや放送系技術プロダクションを経てユー・ブイ・エヌ(UVN)設立。
放送系スタジオシステムの構築設計や運用に従事する。
これから主流となるIP配信の源流とも言えるネット動画配信初期よりシステム構築・運用を経験している。
4K・8K黎明期からUHDコンテンツ制作に従事。
UHD普及促進に特化してOver8K.com プロジェクトを立ち上げる。
2002年より現職。
一般社団法人 日本ケーブルテレビ連盟 コンテンツ部
〒104-0031 東京都中央区京橋1-12-5 京橋YSビル4F
tel:03-3566-8200 fax:03-3566-8201
jcta_contents-lab@catv-jcta.jp